鷄毛雜記

趣味と日々の雑感の記録。読書忘備録、手芸、人形等々の事どもについて。

民藝趣味 (2) 思い出の硝子器

私が「民藝」とはじめて出会ったのは、二十代初め頃に出掛けた松本への一人旅でのことでした。

信州松本と云えば「民藝」と関わりの深い街であることは周知のことと思いますが、当時の私にはそんな基礎知識すらありませんでした。では何故松本を訪れたかと言いますと、それは文学的憧憬の為でありました。ですから旅の第一の目的地は県の森にある旧制松本高等学校記念館であり、第二の目的は安曇野の風光を体験することと碌山美術館でした。そして、此の旅で宿泊したホテルや一休みした喫茶店で松本民芸家具に魅了され、ふと立ち寄ってみた松本民芸館で「民藝」とは何かを知ったのでした。

旅の最後に、記念となる民藝の品をと思い、蔵造りの商家が印象的な中町にあるちきりや民芸店を訪れ、そこでそれまで見たことも無い美しい硝子器に出会いました。

私が眼を留めたのは、美しい気泡が螺旋状に揺らめいているように見える、少し琥珀がかった透明な色の硝子コップで、それは小谷眞三作の倉敷硝子なのでした。

私は、その大ぶりの硝子コップを求めたのでしたが、その際、お店の御主人が教えて下さったのは、“こうした手作りの品は同じ型であっても一つ一つに違いがありそれが個性という物だから、間近に並べてみて色々な角度から眺めていると、屹度自分の好みに合った一つが見つかる”のだと言うことでした。私はその通りにして一つを選びました。そしてその後、陶磁器などを選ぶ際にはいつもこの方法を実践するようになりました。

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松本の思い出、新旧のパンフレット類

 

この“松本の思い出”の倉敷硝子のコップで二十代の頃の私はライン・ワインなど痛飲したものでしたが、その後病気をしてあまりお酒を飲めない体質になって以来、ずっと食器棚の隅に飾らせたままとなりました。

然し、それから20年も経って岡山に住むことになるとは夢にも思わぬことでした。

小谷眞三さんの作品は昔に比べて入手し難くなったと言われておりましたが、岡山在住の間、一度天満屋百貨店で展示即売会が開催されたことがあり、此の度は“岡山の思い出”に小谷さんの硝子器を買い求めようと出掛けたものでした。

この時眼を引いたのは、深い色合いのワイン杯でした。確か、赤・青・琥珀の三色があり、私は青が好いと思ったのですが、平素から何故か赤を好む夫が「絶対赤が好か、赤ば買いなっせよー。」と主張するので赤を購入したのでした。

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所有する民藝の硝子器を写してみました。右の小さめのコップと青いぐい呑みは小谷栄次作、ポットは仙台の光原社で購入した品です。

硝子器に限らず、我が家の食器類は何れかの土地の記憶を伴っております。